こんにちは。人生の後半を穏やかに整えるヒントを発信している、中山眞治です。

筆者近影 作品「月のあかりに濡れる夜Ⅳ」と共に
さて、「延命治療を希望されますか?」親の病状が悪化したとき、医師から突然このような質問を受け、言葉に詰まってしまう家族は少なくありません。
「少しでも長く生きてほしい」「でも、親は本当にそれを望んでいるのだろうか」「自分が決めてしまって後悔しないだろうか」、このような葛藤は多くの家族が経験するものです。
延命治療には、正解があるわけではありません。大切なのは、本人の意思をできる限り尊重し、その人らしい人生の最期を支えることです。
近年では、ACP(アドバンス・ケア・プランニング…人生会議)、という考え方が広まり、元気なうちから本人・家族・医療や介護の専門職が話し合うことの重要性が注目されています。
私は、ファイナンシャル・プランナー(AFP)として、老後設計や家族のお金の有効活用に携わる一方、介護職員初任者研修・福祉用具専門相談員・福祉住環境コーディネーターとして、高齢者が安心して暮らし続けるための支援についても学んできました。
その経験から感じるのは、「延命治療をするか、しないか」を考えること以上に、「本人がどのように生き、どのような最期を望んでいるのか」を家族で共有しておくことの大切さです。
この記事では、延命治療の基本的な考え方から、選択肢ごとの特徴、ACP(人生会議)の進め方、医療・介護スタッフとの話し合い方、そして家族が後悔しない意思決定を行うための心構えまで、分かりやすく解説します。
それでは、早速見ていきましょう!
延命治療とは何か|「命を延ばす治療」と「穏やかに過ごすケア」の違い

親の病気が進行し、自分で食事が取れなくなったり、呼吸が苦しくなったりしたときには、医師から「延命治療についてご家族で考えてください」、と説明を受けることがあります。
しかし、「延命治療」という言葉は知っていても、具体的にどのような治療を指すのか、どのような場面で選択を迫られるのかを、理解している人は決して多くはありません。
そのため、突然の説明を受けた家族は、「延命治療を断れば見捨てることになるのではないか」「受ければ苦しい思いを長引かせてしまうのではないか」、と大きな不安や葛藤を抱えてしまいます。
実際には、延命治療は「受ける・受けない」の二択だけで考えるものではありません。まずは、延命治療とは何かを正しく理解し、その上で本人の価値観や人生観に照らして考えていくことが大切です。
本章では、延命治療の基本的な考え方について整理していきましょう。
延命治療は「悪い治療」ではなく、状況によって意味が変わる
「延命治療」と聞くと、多くの人は人工呼吸器や胃ろう(※)などを思い浮かべるかもしれません。
しかし、本来の延命治療とは、「生命を維持することを目的として行われる医療」の総称です。つまり、病気の回復が期待できる場合には、延命治療は回復へ向かうための大切な治療になります。
一方で、病気の進行により回復が見込めず、人生の最終段階に入っている場合には、「命を少しでも長く保つこと」を目的として行われる医療という意味合いが強くなります。
ここで大切なのは、延命治療そのものに善悪はないということです。本人が「少しでも長く生きたい」と望むのであれば、その意思を尊重することも大切な選択です。
反対に、「自然な経過を大切にしたい」と考える人もいます。どちらが正しいということではなく、その人自身がどのような人生を望むのかによって答えは変わります。
だからこそ、家族だけで判断するのではなく、本人の意思をできる限り確認しておくことが重要なのです。
※ 胃瘻(いろう)とは、口からの食事が困難になった方のために、腹部に小さな穴(瘻孔)を開け、専用のチューブを通して、胃に直接栄養や水分を投与する医療措置になります。
人工呼吸器・胃ろう・点滴・透析など、代表的な延命治療
延命治療には、さまざまな種類があります。代表的なものとしては、次のような医療があります。
- 人工呼吸器による呼吸管理
- 胃ろうや経管栄養による栄養補給
- 中心静脈栄養や点滴
- 人工透析
- 心肺蘇生(CPR)
- 昇圧剤などによる循環管理
これらはすべて、状況によっては命を支える大切な医療です。
たとえば、肺炎になった高齢者が一時的に人工呼吸器を使用し、回復して外せるケースがあります。一方で、重い認知症や終末期がんなど、回復が難しい病気では、一度装着した人工呼吸器を外すことが困難になるケースもあります。
そのため、医師から説明を受ける際には、「この治療は回復を目指すものなのか」それとも「生命維持を目的とした治療なのか」、を確認することがとても重要になるのです。
治療をする目的が「回復」なのか「延命」なのかを確認する
家族が混乱してしまう大きな理由は、「治療」と「延命治療」が混同されてしまうことです。たとえば、抗生物質で肺炎を治療することは、回復を目指す医療です。骨折を手術することも同様です。
しかし、病気が進行し、身体の機能そのものが回復しない状態では、「命を維持すること」が治療の中心になります。
ここで、家族が医師へ確認しておきたいことがあるのです。
- 病気は改善する可能性があるのか
- この治療は何を目的としているのか
- 治療によって本人の苦痛は増えるのか減るのか
- 日常生活へ戻れる可能性はあるのか
これらを充分理解しないまま判断すると、「思っていた治療と違った」という後悔につながることがあります。分からないことは遠慮せず質問し、納得できるまで説明を受けることが大切になります。
家族が最初に知っておきたいのは、治療名よりも本人の状態
私は、介護職員初任者研修や福祉用具専門相談員、福祉住環境コーディネーターの学びを通じて、「どのような医療を受けるか」以上に、「本人がどのような生活を送れるのか」が大切であることを痛感してきました。
医療だけを見てしまうと、「人工呼吸器を付けるかどうか」「胃ろうを作るかどうか」という判断に意識が向きがちです。しかし、本当に考えるべきなのは、その治療によって本人がどのような時間を過ごせるのかということです。
会話はできるのか、家族と触れ合えるのか、痛みや苦しみはどうなのか、本人が大切にしてきた価値観に沿った生活が続けられるのか。
この視点を持つことで、治療の選択は「医療を選ぶこと」ではなく、「その人らしい人生を支えること」へと変わっていきます。だからこそ、延命治療について考える第一歩は、治療方法を覚えることではありません。

本人がどのような人生を歩み、何を大切にしてきた人なのかを家族みんなで思い返すことから始まるのです。
延命治療を選ぶ場合|家族が理解しておきたいメリットと負担

延命治療について考えるとき、多くの人は「受けるべきか、それとも受けないべきか」という二者択一で考えてしまいがちです。
しかし実際には、その判断は本人の病状や回復の可能性、人生観、家族の考え方など、さまざまな要素が重なり合って決まります。
そのため、「延命治療を選ぶ」という決断にも、充分な理由があります。大切なのは、「延命治療をすること」そのものではなく、その治療によって本人がどのような時間を過ごせるのかを家族みんなで考えることです。
本章では、延命治療を選択する場合に、知っておきたい考え方について整理していきます。
少しでも長く一緒にいたいという家族の思い
親が重い病気になったとき、「一日でも長く生きていてほしい」と願うのは、ごく自然な家族の気持ちです。
これまで育ててもらった感謝や、まだ伝えきれていない思いがあるからこそ、「できることはすべてしてあげたい」と考える人も少なくありません。
本人自身が、「まだ孫の成長を見届けたい」「家族と少しでも長く過ごしたい」、と希望するのであれば、その意思を尊重して延命治療を選択することも大切な判断です。
また、急性肺炎や感染症など、一時的な治療によって回復が期待できるケースでは、人工呼吸器や点滴などの治療が命を救うことにつながります。
つまり、「延命治療」という言葉だけで判断するのではなく、何のためにその治療を行うのかを理解することが何より重要なのです。
家族の愛情から延命治療を望むことは、決して間違いではありません。だからこそ、その思いを医療スタッフへ率直に伝えながら、一緒に考えていく姿勢が大切になります。
回復の可能性がある場合と、回復が難しい場合の違い
延命治療について考える際、最初に確認したいのが「回復の可能性」です。たとえば、肺炎や脱水症状などで一時的に全身の状態が悪くなっている場合は、適切な治療によって元の生活へ戻れる可能性があるのです。
このようなケースでは、延命治療は「命をつなぐため」ではなく、「回復するための医療」と考えることができます。
一方、進行した認知症や終末期のがん、重い脳疾患などでは、病気そのものを治すことが難しい場合もあるのです。
そのような状況では、人工呼吸器や経管栄養などが生命を維持するための中心となり、本人が望む生活とのバランスを慎重に考える必要があります。
そのため、医師へは次のような点を確認するとよいでしょう。
- 回復する可能性はどの程度あるのか
- 治療によって生活の質(QOL)はどう変化するのか
- 苦痛は増えるのか、それとも軽減できるのか
- 家族との会話や意思疎通は期待できるのか
このような説明を受けたうえで判断することが、後悔の少ない意思の決定につながります。
本人の身体的負担・生活の質・介護負担を考える
延命治療を選択するときには、「命が続くかどうか」だけではなく、その後の生活についても考える必要があります。たとえば、人工呼吸器や胃ろうを装着した場合でも、本人が穏やかに過ごせるケースもあるのです。
一方で、病状によっては長期間の入院や継続的な医療管理が必要になり、本人にも家族にも大きな負担が生じることがあります。
介護職員初任者研修で学んだ中でも、「生活を支える介護」は治療だけでは完結しません。食事、排泄、清潔保持、体位変換、コミュニケーションなど、日々の暮らし全体を支えていくことが重要になりるのです。
また、福祉用具専門相談員としての視点では、退院後に自宅療養を希望する場合、介護ベッドや移乗用具、車イスなどの環境整備も大切になります。
つまり、延命治療は医療だけの問題ではなく、その後の生活全体をどう支えていくかという視点で考えることが必要なのです。
ファイナンシャル・プランナー(AFP)の視点で考える医療費・介護費・家族の生活への影響
延命治療について語るとき、お金の話は避けるべきではありません。「命に値段を付けるのか」と感じる方もいるかもしれませんが、現実には医療費や介護費、家族の生活への影響も無視できない要素です。
たとえば、長期入院が続けば医療費だけでなく、差額ベッド代や交通費、付き添いのための休職など、さまざまな負担が生じることがあります。
また、自宅で療養する場合には、住宅改修や介護用品の利用、訪問看護・訪問介護などの費用も考える必要があるのです。
ファイナンシャル・プランナー(AFP)として、家計相談を学んできた経験から感じるのは、「お金の心配をしてはいけない」のではなく、「利用できる制度を知ったうえで安心して判断すること」が大切だということになります。
高額療養費制度や高額介護サービス費制度など、公的な支援制度を活用することで負担を軽減できる場合もあるのです。詳しくは、 JT17「介護施設の費用が払えない?知っておきたい公的支援制度と負担を減らす方法!」で解説しています。
そのため、医療ソーシャルワーカーや地域包括支援センター、ケアマネジャーなどへ早めに相談し、利用できる制度を確認しておくことをおすすめします。延命治療は、本人だけでなく家族全体の生活にも関わる重要な選択になります。
延命治療を選ばない場合|「何もしない」ではなく、苦痛を和らげる選択

延命治療を選ばないという決断は、多くの家族にとって非常に重いものです。
「本当にこれでよかったのだろうか」「もっとできることがあったのではないか」、親を思う気持ちが強いほど、このような葛藤や罪悪感を抱えてしまうことがあります。
しかし、延命治療を行わないことは、決して「何もしない」という意味ではありません。人生の最終段階では、病気を治すことよりも、苦痛を和らげ、本人らしく穏やかな時間を過ごせるように支える医療や介護が大切になるのです。
本章では、その考え方について理解を深めていきましょう。
延命治療をしないことと、見放すことは違う
「延命治療を希望しません」この言葉だけを聞くと、冷たい印象を受ける人もいるかもしれません。しかし、実際にはその逆であることも少なくありません。
たとえば、「できるだけ苦しい思いはさせたくない」「最期まで自然な形で過ごしてほしい」「本人が以前からそう望んでいた」、こうした思いから延命治療を希望しない家族も多くいます。
つまり、延命治療を選ばないという判断は、「命をあきらめる」ことではなく、「本人の価値観を尊重する」という選択でもあるのです。
もちろん、その判断は簡単にできるものではありません。だからこそ、医師や看護師、介護スタッフから充分な説明を受け、本人の意思をできる限り確認しながら決めることが重要になります。
緩和ケア・看取りケア・自然な経過を支える医療
延命治療を選ばない場合でも、医療や介護が終わるわけではありません。むしろ、その後は本人ができるだけ、苦痛なく過ごせるように支える医療が中心になります。
たとえば、
- 痛みを和らげる薬を使用する
- 呼吸苦や不安を軽減する
- 口の中を清潔に保つ
- 身体の向きを変えて床ずれを予防する
- 家族が安心して付き添える環境を整える
こうしたケアは、本人の尊厳を守るうえで非常に重要です。
介護職員初任者研修でも、終末期の介護では「治療」よりも「苦痛の軽減」や「安心できる生活環境づくり」が大切であることを学びます。
また、施設や在宅で看取りを行う場合には、医師・看護師・介護職・ケアマネジャーなど、多くの専門職が連携しながら支援を続けるのです。
そのため、「延命治療をしない=何もしてもらえない」という思い込みは正しくありません。本人が安心して過ごせるよう、多くの人が支えてくれる体制が整えられています。
食べられなくなったとき、飲み込めなくなったときの考え方
終末期になると、食事や水分を充分に摂れなくなることがあります。その様子を見る家族は、「何とか食べさせたい」「栄養を取らせなければ」、と強く願うでしょう。
しかし、人生の最終段階では、身体そのものが少しずつ食事を必要としなくなることがあります。無理に食べさせたり、本人の状態に合わない方法で栄養を補給したりすると、かえって身体への負担が大きくなる場合もあります。
もちろん、一人ひとり病状は異なるため、一律に判断することはできません。だからこそ、医師や看護師から現在の身体の状態について充分な説明を受け、「本人にとって何が最も穏やかな方法なのか」を一緒に考えることが大切です。
家族としてできることは、「たくさん食べてもらうこと」だけではありません。口の中を潤したり、好きだった音楽を流したり、手を握って声を掛けたりすることも、本人に安心感を与える大切な支えになります。
家族が罪悪感を抱えすぎないようにするための必要な視点
延命治療を選ばなかった家族の中には、後になって、「あの時、違う選択をしていたら……」と自分を責め続ける人もいます。しかし、医療には「絶対に正しい答え」があるわけではないのです。
その時点で分かっていた情報の中で、本人の希望や家族の思いを尊重しながら最善を尽くしたのであれば、その判断を必要以上に責めるべきではありません。
私は、ファイナンシャル・プランナー(AFP)として、家族のライフプランを学ぶ中で、多くの人が「もっと話し合っておけばよかった」と振り返る場面を見てきました。
後悔を減らすために本当に大切なのは、結果ではなく、本人の意思を尊重しようと努力した過程です。
医療や介護の専門職と充分に相談し、家族同士で何度も話し合い、本人らしい生き方を大切にしながら決断したのであれば、その選択には大きな意味があります。
延命治療を選ぶ場合も、選ばない場合も、家族が目指すべきことは一つです。それは、「どちらが正しいか」を争うことではなく、本人が最期までその人らしく過ごせるように支えることなのです。
その思いがあれば、介護の主体となっていた家族は、一人で苦しみ続けることはありません。

だからこそ、判断に迷ったときは一人で抱え込まず、医療・介護スタッフと率直に話し合いながら、一歩ずつ進んでいくことが何よりも大切なのです。
延命治療を選ばない場合、その後に大切になるのが、本人が穏やかに最期を迎えられる環境づくりです。 JT25「親の介護施設で看取りはできる?家族が知っておきたい最期の迎え方と準備」もあわせてご覧ください。
ACP(人生会議)とは|親が元気なうちに話し合っておきたいこと

延命治療について悩む家族の多くが口にする言葉があります。「親が何を望んでいたのか分からない」この思いが、家族を何年も苦しめてしまうことがあります。
もし親が元気なうちに、「最期はどのように過ごしたいか」「どんな医療を望むのか」、そんな話を少しでもしておけば、家族の迷いは大きく減るかもしれません。
そのために近年、厚生労働省が普及を進めている考え方が、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)です。日本では「人生会議」という愛称でも知られています。
ACPは、病気になってから慌てて決めるものではありません。元気なうちから本人・家族・医療や介護の専門職が繰り返し話し合い、その人らしい人生の最終段階を一緒に考えていく取り組みです。
本章では、親が元気なうちに話し合っておきたいことについて解説します。
ACP(人生会議)は「最期の話」ではなく「どう生きたいか」を考える話し合い
「人生会議」と聞くと、多くの人は「死について話すこと」と考えてしまいます。しかし、本来のACPは少し違います。
ACPが大切にしているのは、「どのように最期を迎えるか」ではなく、「これからどのように生きたいか」という視点です。
たとえば、「できるだけ自宅で暮らしたい」「家族と会話できる時間を大切にしたい」「最期まで好きな音楽を聴いていたい」「痛みだけはできる限り和らげてほしい」、このような希望は、人によってまったく違います。
だからこそ、医療の選択よりも先に、「本人が大切にしていること」を知ることが重要なのです。延命治療も、その価値観を実現するための一つの選択肢として考えることで、家族は判断しやすくなるのです。
本人・家族・医療職・介護職で繰り返し確認する
ACP(人生会議)は、一度話し合えば終わりという考え方はありません。人の気持ちは、年齢や健康状態、家族環境によって変化していきます。
たとえば、60歳では「最後まで治療を受けたい」と考えていた人が、80歳になって「もう充分生きたから自然に任せたい」と考えることもあるのです。
そのためACPでは、
- 本人
- 家族
- 主治医
- 看護師
- ケアマネジャー
- 介護施設の職員
など、多くの人が関わりながら、必要に応じて何度でも話し合いを重ねることが勧められています。
私は、介護職員初任者研修で、「本人の意思を尊重する介護」が基本であることを学びました。その意思は、一度決めたら変えてはいけないものではありません。状況に応じて何度でも見直せることが、ACP(人生会議)の大きな特徴なのです。
親に聞いておきたい5つの質問
「人生会議をしましょう」そう言われても、何から話せばよいのか分からない人も多いでしょう。そのような場合は、難しく考える必要はありません。
たとえば、次のような質問から始めるだけでも充分です。
- 体が動かなくなったら、どこで過ごしたい?
- もし自分で食べられなくなったら、どう考える?
- 苦しくても治療を続けたい?それとも苦痛を減らすことを優先したい?
- 最期は病院・介護施設・自宅のどこを希望する?
- 誰に自分の気持ちを代わりに伝えてほしい?
最初は冗談交じりでも構いません。
大切なのは、一度で結論を出そうとしないことです。少しずつ話し合いを重ねることで、親自身も自分の気持ちを整理できるようになります。そして家族も、「親はこう考える人だ」という理解を深めることができます。
エンディングノートやメモに残すだけでなく、共有しておく
以前のJT8「エンディングノートとは?40代から始める人生整理の第一歩」でもお伝えしましたが、思いを書き残すことはとても大切なことになります。
しかし、それだけでは充分ではありません。エンディングノートが引き出しの中にしまわれたままでは、いざという時に誰も内容を知ることができないからです。
ACPでは、「書くこと」と同じくらい「伝えること」が重要になります。家族みんなが内容を知っている。主治医も理解している。介護施設にも希望が共有されている。この状態になって初めて、本人の意思を尊重した医療や介護が実現しやすくなります。
私は、ファイナンシャル・プランナー(AFP)として、ライフプランを考える仕事をしてきましたが、人生設計とは、お金の準備だけではありません。
自分らしく人生を締めくくる準備も、大切なライフプランの一つです。元気な今だからこそ話し合えることがあります。
医療・介護スタッフとどう話し合うか|家族が確認すべきポイント

延命治療について考えるとき、「家族だけで決断しなければならない」と思い込んでしまう人が少なくありません。
しかし実際には、人生の最終段階における医療や介護は、多くの専門職が連携しながら支えていくものです。
医師、看護師、ケアマネジャー、介護職員、医療ソーシャルワーカーなど、それぞれが専門的な立場から家族をサポートしてくれます。
そのため、一人で結論を出そうとする必要はありません。分からないことや不安なことは、その都度相談しながら、一緒に考えていく姿勢が大切なのです。
本章では、医療・介護スタッフと話し合う際に確認しておきたいポイントをご紹介します。
医師に確認したいこと|回復の見込み・治療の目的・苦痛の有無
主治医から病状の説明を受ける場面では、専門用語が多く、緊張して充分に理解できないことがあります。そのようなときは、「分からないまま帰る」ことだけは避けましょう。
たとえば、次のような点を確認すると、状況を整理しやすくなります。
- 現在の病状はどの程度進行しているのか。
- 回復する可能性はどのくらいあるのか。
- 提案されている治療の目的は何か。
- 治療によって期待できる効果と負担は何か。
- 本人の苦痛を和らげる方法はあるのか。
また、「もし自分の親だったら、どのような点を大切に考えますか」と尋ねることで、医学的な説明だけでは分からない視点を得られることもあるのです。
遠慮して、質問を控える必要はありません。家族が納得して判断するためにも、充分な説明を受けることが大切になります。
看護師・相談員・ケアマネジャーに確認したいこと
医師は治療について説明してくれますが、その後の生活については、看護師やケアマネジャー、医療ソーシャルワーカーなどが詳しく相談に乗ってくれます。
たとえば、
- 在宅療養は可能なのか
- 介護施設で看取りを希望できるのか
- 家族はどのような介護を担うことになるのか
- 利用できる介護保険サービスは何か
- 医療費や介護費の相談先はどこか
このような内容は、医師よりも詳しく教えてもらえる場合があるのです。
また、家族が精神的な不安を抱えているときも、一人で悩まず相談してみましょう。医療や介護の現場では、多くの家族を支えてきた経験を持つ専門職がいます。
「こんなことを聞いてもいいのだろうか」と遠慮せず、不安な気持ちも含めて伝えることが大切です。
施設で看取りを希望する場合に確認すべき体制
近年では、介護施設で最期を迎える方も増えています。しかし、すべての施設が同じ体制ではありません。
たとえば、
- 看取り介護に対応しているか
- 夜間でも看護師や医師と連携できる体制があるか
- 家族の付き添いは可能か
- 宗教的・文化的な希望に配慮してもらえるか
- 最期の時間をどのように支えてくれるのか
こうした点は、入所前や状態が安定しているうちに確認しておくことが安心につながるのです。
JT25「親の介護施設で看取りはできる?家族が知っておきたい最期の迎え方と準備」でもお伝えしましたように、施設によって看取りへの考え方や支援体制は異なります。
そのため、「看取りができます」という説明だけではなく、具体的にどのような支援を受けられるのかを確認することが大切です。
介護職員初任者研修・福祉用具専門相談員の視点で見る生活支援
人生の最終段階では、医療だけではなく、「その人らしい生活」を支えることが重要になります。私は介護職員初任者研修で、高齢者の尊厳を守る介護の基本を学びました。
その中で強く感じたのは、「生活を支える介護」と「病気を治療する医療」は役割が異なるということです。
たとえば、
- 痛みが少ない姿勢を保つ
- 食べやすい環境を整える
- 本人が安心できる声掛けを続ける
- 家族が無理なく介護できる方法を考える
こうした積み重ねが、本人の穏やかな時間につながります。
また、福祉用具専門相談員や福祉住環境コーディネーターの視点では、介護ベッドや体位変換器、手すり、車イスなどを適切に活用することで、本人の負担だけでなく、介護する家族の身体的負担も軽減できるのです。
終末期であっても、「生活の質(QOL)」を高める工夫は数多くあります。医療・介護・福祉用具・住環境整備は、それぞれが独立したものではありません。
専門職が連携しながら支えることで、本人が安心して過ごせる環境が整い、家族も「一人ではない」という安心感を持つことができます。

延命治療について考える際も、こうした多職種の力を借りながら進めていくことが、後悔の少ない意思決定につながるでしょう。
家族が判断に迷わないための準備|親の意思を支える実務

延命治療について悩む家族の多くは、「もっと早く話し合っておけばよかった」と振り返ります。親が元気なうちは、「まだ先のことだから」と話題を避けてしまいがちです。
しかし、病気や事故は突然訪れることがあります。そのときになって初めて家族が集まり、「どうすればよいのだろう」と話し合うのでは、本人の意思を充分に確認できないまま判断しなければならない場合もあります。
だからこそ、元気な今のうちから少しずつ準備を進めておくことが、家族全員の安心につながるのです。
本章では、判断に迷わないために取り組んでおきたい実務についてご紹介します。
兄弟姉妹で意見が割れないように事前共有する
親の延命治療について、兄弟姉妹の意見が一致するとは限りません。「できる限り治療を続けたい」「親は自然な最期を望んでいたはず」、それぞれが親を思うからこそ、考え方が違うことがあるのです。
しかし、親の希望について事前に共有できていれば、感情的な対立を避けやすくなれます。
JT20「兄弟姉妹で介護の負担が偏るときは?家族トラブルを防ぐ話し合いのコツ」でもお伝えしましたように、大切なのは「誰の意見が正しいか」ではなく、「親の意思を家族全員で支える」という共通の目的を持つことです。
そのためにも、
- 親の希望を兄弟姉妹で共有する
- 話し合った内容を簡単に記録しておく
- 必要に応じて親にも確認する
このような積み重ねが、将来の家族間のトラブルを防ぐことにつながります。
救急搬送・入院・施設看取りの希望を整理する
延命治療だけでなく、「どこで最期を迎えたいか」という希望も大切なテーマです。
たとえば、
- 急変したら救急搬送を希望するのか
- できるだけ自宅で過ごしたいのか
- 医療機関で最期まで治療を受けたいのか
- 介護施設で穏やかに看取りを希望するのか
これらは、本人の価値観によって答えが異なります。
また、家族だけで判断するのではなく、主治医や施設職員とも共有しておくことで、急変時にも本人の希望に沿った対応がしやすくなるのです。
「その時になって考える」のではなく、「元気な今だから話せること」として、少しずつ話題にしてみることが大切になります。
福祉住環境コーディネーターの視点で考える「どこで最期を迎えるか」
私は、福祉住環境コーディネーターとして、「住まいは生活を支える大切な環境」であることを学びました。もしも本人が、「自宅で最期まで過ごしたい」と希望するのであれば、住環境の整備が重要になるのです。
たとえば、
- 介護ベッドを設置できるスペースがあるか
- 車イスで移動しやすい動線になっているか
- トイレや浴室への移動に危険はないか
- 訪問看護や訪問介護を利用しやすい環境か
こうした点を事前に確認しておくことで、在宅療養の可能性が広がります。
もちろん、すべての家庭で在宅看取りができるわけではありません。家族の体力や生活環境、医療体制なども考慮しながら、「本人にとって最も安心できる場所」を一緒に考えることが大切です。
判断を一人で抱え込まないための相談先
延命治療についての判断は、家族にとって人生で何度も経験することではありません。だからこそ、「分からなくて当たり前」です。迷ったときには、一人で抱え込まず、専門職の力を借りましょう。
相談先としては、
- 主治医
- 看護師
- 医療ソーシャルワーカー
- ケアマネジャー
- 地域包括支援センター
- 入所施設の相談員
などがあります。
それぞれが異なる立場から助言をしてくれるため、多角的な視点で考えることができます。また、家族だけで話し合うと感情的になってしまう場合でも、第三者が入ることで冷静に話し合えることがあるのです。
延命治療は、「家族だけで決めるもの」ではありません。本人の意思を中心に据えながら、医療・介護の専門職と一緒に考えていくことで、家族の不安は大きく軽減されます。
後悔しない意思決定のために|家族が最後に大切にしたい心構え

延命治療について考えてきましたが、最後にお伝えしたいことがあります。それは、「正解を探し続けないこと」です。
延命治療を選ぶことにも理由があります。延命治療を選ばないことにも理由があります。どちらが正しく、どちらが間違っているという単純な答えはありません。
だからこそ、家族は「何を選ぶか」だけではなく、「どのような思いでその選択をしたのか」を大切にしてほしいと思います。その積み重ねが、将来の後悔を少しずつ減らしてくれるのです。
本章では、家族が最後に大切にしたい心構えについて解説します。
正解を探すより、本人らしさに近い選択をする
医療の現場では、「これが唯一の正解です」と言い切れる場面は多くありません。同じ病気であっても、年齢や体力、生活環境、価値観によって最善の選択は変わります。
だからこそ、家族が目指すべきなのは、「一般的に正しい選択」ではなく、「本人らしい選択」です。
たとえば、「最後まで自宅で過ごしたい」「できるだけ苦痛なく穏やかに過ごしたい」「家族と会話できる時間を大切にしたい」、こうした本人の願いを知ることができれば、延命治療についても判断しやすくなれます。
家族が迷ったときは、「親ならどう考えただろう」と、その人らしさを思い浮かべてみてください。その視点が、迷いの中で進むべき方向を教えてくれることがあるのです。
その時点で得られる情報の中で最善を尽くせばよい
延命治療を経験した家族の中には、「あの時、別の選択をしていたら結果は違ったのではないか」と、自分を責め続ける方もいます。
しかし、未来を完全に予測できる人はいません。医師も、家族も、その時点で分かっている情報をもとに判断しています。だからこそ、必要以上に自分を責める必要はありません。
大切なのは、充分に説明を受けたこと。家族で話し合ったこと。本人の意思を尊重しようと努力したこと。その積み重ねです。
結果だけで判断するのではなく、そこに至るまでの過程を大切にしてください。それが、家族自身の心を守ることにもつながります。
「延命する・しない」ではなく「どう支えるか」で考える
この記事では、延命治療について詳しくご紹介してきました。しかし、本当に大切なのは、「延命するか、しないか」という二択ではありません。
もっと大切なのは、「本人をどのように支えていくか」という視点です。医療は命を支えます。介護は生活を支えます。福祉用具は暮らしを支えます。住環境は安心を支えます。そして家族は、その人らしい人生そのものを支える存在です。
私は、ファイナンシャル・プランナー(AFP)として、人生設計を考える仕事に携わる一方で、介護職員初任者研修、福祉用具専門相談員、福祉住環境コーディネーターとして学んできました。
それぞれ分野は違いますが、すべてに共通していることがあります。それは、「本人の尊厳を守ること」です。延命治療について考えることも、その人らしい人生を支えるための大切な準備の一つなのです。
親の人生を尊重することが、家族自身の納得にもつながる
親が元気なうちは、最期について話すことに抵抗を感じるかもしれません。しかし、本当に大切なのは、「最期のため」だけではありません。親の思いを知ることは、これからの時間をより大切に過ごすきっかけにもなります。
「今度、一緒に食事へ行こう」「孫に会ってもらおう」「昔話をゆっくり聞いてみよう」そんな何気ない時間も、親の希望を知ることで、かけがえのない思い出になるのです。
人生の終わりを考えることは、決して暗い話ではありません。残された時間を、より豊かに生きるための準備でもあります。

延命治療を選ぶかどうかよりも、親がどのような人生を望み、家族がその思いをどれだけ大切にできたか。その積み重ねが、親にとっても、家族にとっても、後悔の少ない人生につながるのではないでしょうか。
延命治療や看取りの判断では、兄弟姉妹の意見が分かれることもあります。 JT20「兄弟姉妹で介護の負担が偏るときは?家族トラブルを防ぐ話し合いのコツ」もあわせて確認しておくと安心です。
人生会議では、延命治療について家族で話し合うことも重要です。その考え方について詳しくは、JT27「人生会議(ACP)とは?親が元気なうちに話しておきたい大切なこと」をご覧ください。
まとめ

延命治療について考えることは、決して「命を延ばすか、延ばさないか」を決めるだけの話ではありません。本当に大切なのは、親がどのような人生を望み、家族がその思いをどれだけ尊重できるかということです。
この記事では、そのために知っておきたいポイントとして、次の内容をご紹介しました。
- 延命治療とは何か、その目的と代表的な治療内容。
- 延命治療を選ぶ場合と選ばない場合、それぞれの考え方。
- ACP(人生会議)を通じて、本人の意思を早い段階から共有する大切さ。
- 医療・介護スタッフと連携しながら判断することの重要性。
- 家族が後悔しないために、元気なうちから準備しておきたいこと。
- 「延命する・しない」ではなく、「本人らしい人生をどう支えるか」という視点。
どれほど医療が進歩しても、人生の最終段階に「絶対に正しい選択」はありません。だからこそ、親が元気な今だからこそできる話し合いに、大きな意味があります。
「もしもの話をするなんて、まだ早い」そう思う方もいるでしょう。しかし、ACP(人生会議)は「最期の準備」のためだけではありません。
親が、どのような人生を送りたいのかを知り、家族がその思いを理解することで、これから一緒に過ごす時間そのものが、より豊かで温かいものになります。
私自身、ファイナンシャル・プランナー(AFP)として人生設計や家計の相談に携わる中で、「もっと早く話し合っておけばよかった」という声を数多く認識してきました。
また、介護職員初任者研修、福祉用具専門相談員、福祉住環境コーディネーターとして学んできた経験からも感じるのは、人生の最終段階を支えるのは医療だけではないということです。
介護があります。住環境があります。福祉用具があります。そして何よりも、家族の理解と寄り添う気持ちがあります。これらが一つになって初めて、本人が安心して「自分らしい人生」を歩み続けることができるのです。
延命治療について考えることは、決して暗い話ではありません。むしろ、親の思いを知り、家族の絆を深め、残された時間をより大切で、有意義に生きるための準備でもあります。
この記事が、親御さんと将来について穏やかに話し合うきっかけとなり、ご家族が「本人らしい選択」を支える一助となれれば幸いです。
そして、人生を整える準備は、介護や医療の場面だけではありません。お金、暮らし、健康、生きがいなど、40代から少しずつ人生全体を見つめ直していくことで、将来への不安は安心へと変わっていきます。
一歩ずつ準備を重ねながら、自分自身も、そして大切な家族も、「その人らしい人生」を歩んでいけるよう、今日できることから始めてみてはいかがでしょうか。
人生会議(ACP)では、「どのように最期を迎えるか」だけではなく、「これからどのように生きたいか」を考えることも大切です。
趣味や生きがいを持ち、自分らしい時間を積み重ねていくことも、豊かな人生を支える大切な要素ではないでしょうか。
私自身が取り組んでいる鉛筆画も、その一つです。絵を描くことが人生にもたらす豊かさについては、LS300「なぜ鉛筆画を描くと人生が豊かになるのか?上達だけではない7つの魅力!」で詳しくご紹介していますので、興味のある方はぜひご覧ください。
私自身も、起業や転職、失敗や挑戦を繰り返しながら、人生の後半を少しずつ整えてきました。このサイトでは、その経験や学びをもとに、人生の後半を穏やかに充実させるヒントを発信しています。
この記事を書いた人
中山眞治
人生の後半を整えるアドバイザー
ファイナンシャル・プランナー(AFP)・終活カウンセラーなどの資格と人生経験をもとに、 40代以降の人生を「整えながら生きる」ための情報を発信しています。
プロフィールはこちら人生の後半とは、遅すぎるのではなく、これからの人生を整えていける時間がまだ充分にあります。あなたらしい歩み方を見つけるヒントになれば幸いです。

