こんにちは。人生の後半を穏やかに整えるヒントを発信している、中山眞治です。

筆者近影 作品「月のあかりに濡れる夜Ⅳ」と共に
定年退職が近づいているのに、退職後の自分がどのように一日を過ごしているのか、うまくイメージできない人は少なくありません。
お金や健康について考えていても、仕事のない生活、人とのつながり、住まい、生きがいまでを一つの暮らしとして思い描くのは難しいものです。
しかし、定年退職後の準備は、退職直前にまとめて行うものではありません。退職までの5年間を使い、現在の暮らしを確認しながら一つずつ試していくことで、定年退職後の姿は少しずつ具体的になります。
私が、ファイナンシャル・プランナー(AFP)や終活について学んできた中で感じるのは、安心できる老後は、お金だけを整えれば完成するものではないということです。
仕事、健康、住まい、人間関係、時間の使い方がつながって、初めて自分らしい生活になります。
この記事では、定年退職5年前から定年退職直後までを7つの段階に分け、何を、いつ、どの順番で整えればよいのかを具体的に解説します。
定年退職5年前|まず「現在の暮らし」を見える化する

定年退職後の準備というと、年金額や老後資金の確認から始める人が多いかもしれません。しかし、その前に行っておきたいのが、現在の暮らしの見える化です。
定年退職後の生活を想像できないのは、将来について考えていないからとは限りません。現在の生活の多くを仕事が占めているため、仕事を取り除いたあとの姿が見えにくくなっていることもあります。
まずは理想の老後を決めようとはせず、現在の時間の使い方や仕事が果たしている役割を書き出してみましょう。定年退職5年前であれば、気づいたことを実際に試し、修正する時間もあります。
本章では、定年退職後の生活設計を始める前に、現在の暮らしを見える形にする方法を解説します。
定年後の暮らしを、今から少しずつ整えていきませんか?
老後のお金・健康・住まい・人間関係・生きがいなど、人生の後半を安心して歩むためのヒントを、メールマガジンでお届けしています。
ファイナンシャル・プランナー(AFP)・終活カウンセラーとして学んできたことをもとに、毎日の暮らしに取り入れやすい考え方をお伝えします。
登録は無料です。いつでも解除できます。
平日と休日の時間の使い方を書き出す
最初に、平日と休日をどのように過ごしているか、紙に書き出してみましょう。起床、通勤、勤務、食事、家事、趣味、睡眠などを、大まかな時間帯ごとに並べます。
ここでの目的は、忙しさを反省することではありません。自分の一日が何によって成り立っているかを知ることです。
仕事と通勤に一日10時間使っているなら、定年退職後にはその時間が空きます。自由な時間が増えるのは喜ばしい一方で、突然大きな空白が生まれると、何をすればよいか分からなくなる可能性もあります。
休日の過ごし方も確認しましょう。休息だけで終わっている場合には、それが望んでいる過ごし方なのか、仕事の疲れによるものなのかを分けて考える必要があるのです。
仕事が生活に与えているものを分解する
仕事が、生活に与えているものは収入だけではありません。決まった時間に起きる理由、人と会話する機会、責任を果たす充実感、社会とのつながりも、仕事から得ているものです。
そこで、仕事の役割を「収入」「生活のリズム」「人間関係」「役割」「社会との接点」、などに分けて、定年退職後も必要だと思うものを確認します。
収入は年金や再雇用で補えても、人との会話や役割は自分で作らなければなりません。地域活動、趣味の集まり、家事などが、新しい役割になることもあるのです。
仕事を辞めることだけではなく、仕事が担っていた役割を何に引き継ぐかまで考えると、定年後の生活が見えやすくなります。
残したいものと手放したいものを分ける
定年退職を迎えるからといって、生活をすべて作り直す必要はありません。長く続けてきた習慣の中には、定年退職後の自分を支えてくれるものもあります。
朝早く起きる、散歩する、新聞を読む、家族と夕食を囲むなど、残したい習慣を書き出します。一方で、長時間の通勤や気の進まない付き合いなど、定年退職を機に手放したい負担も整理しましょう。
そして、残したい習慣は今から意識して続け、手放したい負担は少しずつ減らせないか考えます。5年間かけて調整すれば、定年退職を境に生活全体が突然変わることを防げます。
夫婦や家族と「まだ決めない話し合い」を始める
夫婦で暮らしていても、定年後に望む生活が同じとは限りません。本人は夫婦で趣味や旅行を楽しみたいと思っていても、配偶者はそれぞれの時間を大切にしたいと考えていることもあります。
「定年退職後はどのような一日を過ごしたいのか」「今の住まいで暮らし続けたいのか」「一緒にしたいことは何か」、などを話してみましょう。
この段階で結論を出す必要はありません。定年退職後に在宅時間が増えれば、家事の分担や生活のリズムも変わります。早いうちに希望の違いを知っておけば、時間をかけてお互いが納得できる形を探せます。

定年退職5年前は、将来の計画を決める前に、現在の時間の使い方と仕事の役割を確認する時期です。今の暮らしを見える化することが、定年退職後を具体的に考える出発点になるのです。
定年後だけでなく、これからの人生全体を見通しながら計画を立てたい方は、次の記事も参考にしてください。 JT3「ライフプランニングとは?人生100年時代を穏やかに生きるための設計図」
定年後の生活を考える中で、現在の仕事への意欲が低下し、「このまま働き続けてよいのだろうか」と迷っている方は、次の記事も参考にしてください。 JT63「50代で仕事への意欲がなくなったら|人生の折り返し点で訪れる心の変化との向き合い方」
定年退職4年前|退職後のお金を「月単位の暮らし」に置き換える

定年退職5年前に現在の暮らしを見える化しましたら、次は退職後のお金を確認します。
ただし、「老後資金はいくら必要か」、という大きな数字だけを見ても、実際にどのような生活ができるのかは分かりません。大切なのは、定年退職後に入るお金と出ていくお金を月単位に置き換え、暮らしとして考えることです。
私が、ファイナンシャル・プランナー(AFP)として学んできた中でも、金額を知るだけでなく、そのお金でどのように暮らすかを考えることが重要だと感じています。
本章では、定年退職後の収支を具体的な生活へ置き換え、無理がないかを確かめる手順を解説します。
定年退職後に入るお金を時期ごとに整理する
最初に、定年退職後に受け取るお金の種類と時期を確認しましょう。公的年金、企業年金、退職金、再雇用による給与などを一覧にします。
このとき、金額だけでなく、いつから受け取れるのかを記載することが大切です。退職する時期と年金の受給開始時期がずれていれば、その間の生活費を別に用意しなければなりません。
退職金についても、すべてを生活費として考えるのではなく、当面の生活費、住まいの修繕、医療や介護への備えなど、目的ごとに分けておくと使いすぎを防げます。
まずは正確な金額を出すことより、どの時期に、どこから収入が入るのかを見える形にしましょう。
現在の生活費から仕事をすることによる支出を分ける
次に、現在の一か月の支出を確認します。住居費、食費、水道光熱費、通信費、保険料などに分け、仕事を辞めたあとも続く支出と、減る可能性がある支出を分けましょう。
通勤費、昼食代、仕事着、職場関係の交際費などは、定年退職後に減るでしょう。ただし、自宅で過ごす時間が増えれば、水道光熱費や自宅での食費が増えることもあります。
「定年退職すれば支出は大きく減る」と決めつけず、仕事がなくなることで減る費用と、新たに増える費用の両方を見ることが必要です。
家計簿を細かく付けられない場合は、通帳やクレジットカードの明細を3か月分確認するだけでも、支出の傾向が分かります。
定年退職後に増える支出を先に見積もる
定年退職後には、医療費や住まいの修繕費だけでなく、自由時間が増えることで発生する支出もあります。旅行、趣味、外食、学び、家族との交流などに、どの程度お金を使いたいのかを考えてみましょう。
節約だけを前提にすると、数字の上では家計が成り立っても、楽しみの少ない生活になりかねません。反対に、毎日が休日になる感覚でお金を使えば、想定以上の支出になる可能性があります。
そこで、「生活を守る支出」「楽しむための支出」「将来に備える支出」の三つに分けます。何にいくら使うかが明確になると、使ってよいお金と残すべきお金を判断しやすくなるのです。
年金生活の予算で一か月暮らしてみる
収入と支出の見通しを作りましたら、想定した定年後の予算で一か月暮らしてみましょう。たとえば、年金などの月収を想定し、その範囲で日常生活費を管理します。
実際に試すと、削っても困らない支出と、減らすと生活が窮屈になる支出が分かります。予定より余裕があれば、趣味や交流に使える金額も具体的になるのです。
一度で成功させる必要はありません。定年退職4年前から年に数回試せば、物価や家族の状況に合わせて修正できます。計算だけで終わらせず、暮らして確かめることが、定年後のお金に対する漠然とした不安を小さくしてくれます。
定年退職3年前|健康と住まいを「動けるうち」に点検する

定年退職後の収支が見えてきましたら、次は健康と住まいを点検します。どちらも将来の暮らしを支える基盤ですが、問題が起きてから考え始めると、選べる方法が限られてしまうことがあります。
ただし、健康への不安から無理な運動を始めたり、将来を心配して急いで住み替えたりする必要はありません。まずは現在の身体と住まいの状態を知り、負担になりそうな部分を早めに見つけることが大切です。
本章では、定年退職後も自分らしい生活を続けるために、健康と住まいをどのような順番で点検すればよいのかを解説します。
定年退職後も続けられる健康管理へ切り替える
会社員である間は、勤務先の健康診断によって、定期的に身体の状態を確認できます。しかし、定年退職後は自分で受診の時期を管理しなければなりません。
定年退職3年前から、健康診断の結果を保管し、血圧や体重、血糖値などの変化を確認する習慣を作りましょう。気になる数値があれば放置せず、早めに医療機関へ相談します。
かかりつけ医や、定期的に通える歯科医院を決めておくことも、定年退職後の安心につながります。とくに、歯の状態は食事や体力などを含む健康寿命にも関わるため、痛みがなくても定期的な確認が必要です。
会社に管理してもらう健康から、自分で管理する健康へ少しずつ切り替えることが、この時期の大切な準備になります。
「生活を続ける力」があるかを確認する
健康づくりというと、筋力や運動量に目が向きますが、大切なのは基本的な生活である、日常生活を自分で続けられることです。
歩いて買い物へ行く、階段を上る、掃除や料理をする、重い荷物を運ぶなど、普段の動作で負担を感じる場面がないか振り返ってみましょう。以前よりも疲れやすくなった動作は、身体の変化を知る手がかりになります。
運動を始める場合も、特別な目標を立てる必要はありません。短い距離を歩く、階段を使う、軽く身体を動かすなど、日常に取り入れられる方法から始めましょう。
無理なく続けられる運動を、定年退職前に習慣にしておけば、仕事を辞めたあとも生活のリズムを保つ助けになります。
10年後の身体を想定して住まいを見直す
現在は不便を感じていない住まいでも、年齢を重ねると負担になる場所が出てきます。玄関や室内の段差、急な階段、滑りやすい浴室やトイレ、夜間に暗くなる廊下などを確認しましょう。
二階に寝室がある場合には、将来、一階だけでも生活できるかを考えてみます。収納場所が高すぎたり、よく使う物が別々の部屋に置かれていたりする場合には、配置を変えるだけでも負担を減らせます。
私が、福祉住環境について学んできた中でも、住まいの安全は大規模な改修だけで整えるものではないと感じます。照明を明るくする、段差をなくす、床に置いてある物を減らす、家具の位置を見直すなど、小さな改善から始めることができるのです。
住み続けるための判断基準を決めておく
今の住まいに住み続けるか、改修や住み替えを考えるかは、すぐに結論を出せる問題ではありません。そこで、どのような変化が起きたら見直すのか、判断基準を決めておきます。
たとえば、階段の上り下りが難しくなった、車を運転できなくなった、病院や買い物へ行きにくくなった、家の維持管理が負担になったときなどです。
判断基準があれば、問題が深刻になる前に家族へ相談できます。住み替えの可能性がある場合には、希望する地域の交通、医療、買い物環境を見ておくとよいでしょう。
住まいの結論を急ぐのではなく、必要になったときに動ける準備をしておくことが大切です。また、住環境を選ぶポイントとして、ワンフロア-のマンションなどへの住み替えも考えてみるべきです。

定年退職3年前は、現在の健康状態と住環境を点検し、将来の変化に備える時期です。動けるうちに小さな改善を始め、必要になったときの判断基準も決めておきましょう。
定年退職2年前|会社以外の人間関係と居場所を育てる

健康と住まいを点検しましたら、次は会社以外の人間関係と居場所を考えましょう。
仕事をしている間は、意識しなくても職場で人と逢い、会話をし、自分の役割を感じることができます。しかし、定年退職すると、それらの機会が一度に減る可能性があります。
だからといって、定年退職後の孤独を避けるために、たくさんの友人を作る必要はありません。大切なのは、仕事を離れたあとも無理なく外へ出られ、人と緩やかにつながれる場所を持つことです。
本章では、定年退職後になってから慌てないために、会社以外の人間関係と居場所を少しずつ育てる方法を解説します。
現在の人間関係を定年退職後の視点で整理する
最初に、現在の人間関係を振り返ってみましょう。職場の同僚、昔からの友人、近所の人、趣味を通じて知り合った人などを書き出します。
そのうえで、定年退職後も付き合いを続けたい人と、仕事があるからつながっている人を分けてみます。優劣を付けるためではなく、会社を離れたあとに残るつながりを知るためです。
逢いたいと思いながら連絡していない友人がいれば、定年退職を待たずに連絡してみてもよいでしょう。年賀状だけの付き合いになっている人と、久しぶりに話してみる方法もあります。
人間関係は、必要になったときに急に作れるものではありません。定年退職2年前から少しずつ交流を戻しておくことで、無理のない形でつながりを育てられるのです。
週に一度通える場所を一つ試してみる
定年退職後の居場所は、特別な活動でなくても構いません。図書館、運動施設、公民館、地域の講座、趣味の教室、ボランティアなど、週に一度ほど通えそうな場所を探してみましょう。
ここで大切なのは、資料を集めるだけで終わらせず、一度実際に参加してみることです。興味のある活動でも、開催時間、参加者の雰囲気、移動の負担などが自分に合わない場合もあります。
反対に、あまり期待していなかった場所が、気分転換や人との会話につながることもあります。合わなければ無理に続ける必要はありません。
定年退職前から試しておけば、仕事を辞めたあとに通う場所が一つもないという状態を避けられるのです。
肩書を使わずに人と関わる練習をする
会社員として長く働いてきた人ほど、勤務先や役職によって自分を紹介することに慣れています。しかし、地域や趣味の集まりでは、過去の肩書が人間関係の中心にはなりません。
まずは、自分の興味や、最近取り組んでいることを短く話せるようにしておきましょう。「散歩を始めました」「絵に興味があります」「地域のことを知りたくて参加しました」など、現在の自分を伝える言葉で充分です。
また、自分の経歴を説明することよりも、相手の話を聞く姿勢が大切になります。会社での立場に関係なく、一人の参加者として関わることで、新しい関係が生まれやすくなります。
定年退職前から、肩書に頼らない交流を経験しておくことが、会社以外の居場所になじむ準備にもなるのです。
定年後に夫婦で過ごす時間が増えたとき、互いの時間と空間をどのように守ればよいかについては、次の記事で詳しく解説しています。 JT68「定年後、夫婦でずっと一緒にいるのがつらい|お互いの時間を守る暮らし方」
夫婦がお互いに別の時間を持てるようにする
定年退職後に夫婦で過ごす時間が増えると、安心を感じる一方で、お互いに負担を感じることもあります。夫婦だからといって、毎日同じ予定で行動する必要はありません。
一緒に楽しみたいことと、それぞれが一人で行いたいことを話し合ってみましょう。片方が外出するときに、もう片方も無理に同行するのではなく、自分の時間を過ごせることが大切です。
それぞれに人間関係や居場所があれば、配偶者だけに会話や楽しみを求めずに済みます。そして、一緒に過ごす時間にも新しい話題が生まれます。
定年退職前から別々に過ごす時間を尊重しておけば、生活が変わったあとでも、お互いに息苦しさを感じにくくなれるのです。
退職後の孤立を防ぐために、地域とのつながりをどのように作ればよいのか知りたい方は、次の記事もあわせてご覧ください。 JT55「50代から始める地域とのつながり|孤立しない老後を迎えるために」
定年退職1年前|仕事の終わらせ方と退職後の働き方を決める

定年退職1年前になると、再雇用を選ぶのか、別の仕事を探すのか、それとも仕事を辞めるのか、具体的な判断を求められるようになるのです。
収入は重要ですが、金額だけで決めると、体力や自由時間、家族との生活との間に時間的なずれが生じることもあります。
また、定年退職は仕事が終わる日であると同時に、長く担ってきた役割から離れる節目でもあります。働き方を決めるだけではなく、これまでの仕事をどのように終えるかも考えておきましょう。
本章では、再雇用などの選択肢を整理して、納得できる形で仕事から次の生活へ移る方法を解説します。
再雇用を収入だけで判断しない
再雇用を選べば、定年退職後も収入を得ながら、これまでの経験を生かせます。一方で、給与や役職、仕事内容が変わることもあるため、定年前と同じ感覚で働けるとは限りません。
勤務日数、勤務時間、通勤の負担、仕事内容、責任の範囲を確認しましょう。収入が得られても、体力的な負担が大きかったり、自由に使える時間がほとんどなかったりすれば、望んでいた定年退職後の生活とはかけ離れてしまいます。
会社から提示された条件を受け入れる前に、自分が何歳まで、週に何日、どの程度働きたいのかを考えておくことが大切です。条件が合わない場合には、再雇用以外の働き方も選択肢に入れましょう。
働く目的を三つに分けて考える
定年退職後も働きたい理由は、人によって異なります。そこで、働く目的を「生活費」「社会とのつながり」「やりがい」、の三つに分けて考えてみましょう。
生活費を補う必要があるなら、必要な収入額と働く期間を具体的にします。人と関わることが目的なら、必ずしも週5日働く必要はなく、短時間勤務や地域活動でも希望を満たせる可能性があるのです。
知識や経験を生かしたい場合には、これまでと同じ職種に限らず、後輩の支援や別の分野での仕事も考えられます。
働く目的が分かれば、収入だけに左右されず、自分に合った勤務時間や仕事内容を選びやすくなれます。複数の目的がある場合には、何を最も優先したいのかも決めておきましょう。
引き継ぎと身辺整理を早めに始める
定年退職直前に、仕事をまとめて引き継ごうとすると、自分にも後任者にも大きな負担がかかります。退職1年前から、担当業務、連絡先、仕事の手順、注意点などを少しずつ整理しましょう。
自分にしか分からない仕事がある場合には、手順を記録し、周囲と共有します。長く働いてきた人ほど多くの経験を持っていますが、それを自分だけで抱えたまま退職すれば、充分に生かされません。
机や書類、会社のパソコン内のデータなども、規則に従って整理します。私物を少しずつ持ち帰れば、定年退職直前に慌てずに済みます。
知識や役割を次の人へ渡すことは、居場所を奪われることではありません。仕事を丁寧に終え、次の生活へ気持ちを切り替えるための準備なのです。
肩書のない自分を表す言葉を用意する
定年退職すると、勤務先や役職を名乗る機会がなくなります。それまでは、仕事を中心に自己紹介してきた人は、「自分は何者なのだろう」、と戸惑うことがあります。
そこで、過去の肩書ではなく、現在の関心やこれから取り組みたいことを短い言葉にしてみましょう。「地域の歴史を学びたい」「健康のために歩いている」「昔好きだった絵を再開したい」、などで構いません。
立派な目標を掲げる必要はありません。定年退職後にどのような暮らしをしたいのかを言葉にすると、自分の進む方向が見えやすくなります。
肩書がなくなっても、これまで培った経験や人柄まで失うわけではありません。仕事上の自分から、生活者としての自分へ移る準備を始めましょう。

定年退職1年前は、収入だけで働き方を決めず、何のために、どの程度働くのかを選ぶ時期です。同時に仕事の引き継ぎを進め、次の生活へ気持ちを移していきましょう。
定年退職半年前|定年退職後の一週間を実際に試してみる

定年退職まで半年ほどになりましたら、これまで考えてきた準備を、実際の一週間へ落とし込みます。定年退職後の生活というと、旅行や趣味などの楽しみを思い浮かべますが、多くを占めるのは、特別な予定のない普通の日です。
仕事へ行く必要がなくなれば、起きる時間や食事の時間、外出する機会も自分で決めなければなりません。自由な時間が増えても、生活の軸がなければ、毎日を持て余すことがあります。
本章では、定年退職前に仕事のない一週間を組み立てて、無理なく続けられる生活かどうかを実際に試す方法を解説しましょう。
起床から就寝までの基本時間を決める
最初に、定年退職後の一日の基本的な流れを作ってみましょう。起床、朝食、家事、外出、昼食、趣味、入浴、夕食、就寝などを、大まかな時間帯に配置します。
分刻みの予定表を作る必要はありません。大切なのは、仕事がなくても起床や就寝の時間が大きく乱れないように、生活の目安を持つことです。
とくに朝の過ごし方は、一日全体のリズムに影響します。着替える、朝食を取る、新聞を読む、散歩へ出るなど、毎朝繰り返せる行動を一つ決めておくと、自然に一日を始められます。
予定のない日にも、守れる程度の緩やかな流れを作ることが、定年退職後の生活を安定させる基盤になるのです。
一週間を「役割・交流・休息」で組み立てる
定年退職後の一週間は、趣味や外出だけで埋めるのではなく、「役割」「交流」「休息」の三つに分けて考えてみましょう。
役割には、家事、地域活動、家族の手伝いなどがあります。交流には、友人との会話、趣味の集まり、近所への外出などが含まれます。そして、何もせずに身体や心を休める時間も必要です。
予定を入れすぎると、定年退職後も仕事をしていた頃と同じように時間へ追われてしまいます。反対に、何も決めなければ、外出や人との会話が減りやすくなります。
三つの時間を偏りなく配置して、一週間の中に活動する日と休む日を作ることが、長く続けられる生活につながるのです。
有給休暇を使って定年退職後の生活を試す
一週間の予定を作りましたら、有給休暇などを活用して、実際に試してみましょう。旅行へ出かける休暇ではなく、できるだけ自宅で普通に過ごします。
平日の午前中に散歩や買い物へ出かけ、利用したい図書館や運動施設、地域の集まりなどにも足を運んでみます。休日には分からなかった混雑状況や利用者の雰囲気、移動の負担が確認できるのです。
予定を入れない日も作り、何をして過ごしたくなるのか自分自身を観察しましょう。退屈を感じたとしても失敗ではありません。どの時間帯に手持ち無沙汰になるのかが分かれば、定年退職後の予定を考える材料になります。
頭の中で想像するだけでなく、実際に暮らしてみることで、自分に必要な活動や休息が見えてくるのです。
試した結果を夫婦や家族と修正する
試しに一週間過ごしたあとは、気づいたことを記録します。無理なく続けられたこと、思ったより疲れたこと、時間を持て余した場面などを書き出しましょう。
夫婦で暮らしている場合には、在宅時間が増えたことで相手がどう感じたかも確認します。食事の準備、掃除、買い物などが一方に偏っていないか、一人で過ごす時間を確保できたかを話し合います。
予定表どおりに過ごせなかったとしても、問題はありません。実際の生活に合わなかった部分を減らしたり、別の時間へ移したりして修正しましょう。
定年退職前に試しておけば、生活のずれを早く発見できます。完成した予定表を作るのではなく、夫婦や家族が無理なく暮らせる形を探すことが目的です。
定年退職直前から退職後|生きがいを一つに決めず、小さく育てる

定年退職が近づくと、「仕事に代わる生きがいを見つけなければならない」、と焦ることがあります。しかし、長く続けられる生きがいを、定年退職前に一つだけ選び、完成させる必要はありません。
生きがいは、頭の中で考えて見つけるというよりも、興味のあることを実際に試し、その中から少しずつ育てていくものです。
定年退職直後は、それまでの疲れが出たり、気持ちが落ち着かなかったりすることもあります。最初から理想の生活を求めず、自分に合うものを確かめる期間として考えましょう。
本章では、定年退職後の生きがいを小さく試し、暮らしの中で育てていく方法を解説します。
以前から気になっていたことを三つ試す
仕事をしていた頃に、「時間ができたらやってみたい」、と思っていたことを三つ書き出してみましょう。旅行や趣味だけでなく、学び直し、地域活動、創作、運動、短時間の仕事なども候補になるのです。
ただし、道具を一度に揃えたり、高額な講座へ申し込んだりする必要はありません。体験教室へ参加する、学びたいことや創作についての本を一冊読む、見学に行くなど、小さな方法から始めます。
実際に試すと、想像以上に楽しいこともあれば、自分には合わないと分かることもあります。合わなかった経験も、選択肢を整理できたという意味では無駄ではありません。
最初から長く続けられるものを見つけようとせず、複数の可能性に触れることが、生きがいを見つける入口になります。
自分に合う趣味や小さな楽しみをどのように見つければよいのか迷っている方は、次の記事も参考にしてください。 JT54「定年後に生きがいを失わないために|人生後半を楽しむ趣味の見つけ方」
楽しみ・成長・貢献の三方向から考える
生きがいというと、夢中になれる趣味を思い浮かべるかもしれません。しかし、生きがいにつながるものは、楽しいことだけとは限りません。
まず、自分自身が純粋に楽しめることを考えます。次に、練習や学習を通じて少しずつ成長を感じられることを探します。そして、自分の経験や力を誰かのために生かせることにも目を向けます。
たとえば、絵を描くことを楽しみながら技術を磨き、やがて作品を人に見てもらうこともできます。地域活動に参加して、絵について人の役に立ちながら、新しい知識を得る方法もあるのです。
一つの活動に三つの要素がすべて含まれていなくても構いません。複数の活動を組み合わせれば、暮らしに楽しみ、成長、貢献を持たせることができます。
定年退職後の最初の半年を調整期間と考える
定年退職した翌日から、充実した生活を始められるとは限りません。自由になった喜びを感じる人もいれば、仕事を失った寂しさや、何もする気になれない疲れを感じる人もいます。
そのため、定年退職後の最初の半年間は、新しい生活を完成させる期間ではなく、心と身体を慣らす調整期間と考えましょう。
予定を詰めすぎて疲れる場合には、外出を減らします。反対に、家にいる時間が長く気持ちが沈むなら、散歩や地域の講座などを一つ加えます。自分の状態を見ながら、少しずつ予定を動かしていくことが大切です。
周囲の、充実した生活と比べる必要はありません。仕事中心だった生活から、自分で時間を組み立てる生活へ移るには、ある程度の時間が必要になります。
半年ごとに暮らし全体を見直す
定年退職後の生活は、一度計画を立てれば、そのまま続けられるものではありません。年齢を重ねるにつれて、健康状態、家族の事情、家計、人間関係、興味の対象も変化します。
半年ごとに、お金、健康、住まい、人とのつながり、時間の使い方、仕事、生きがいの七つを振り返ってみましょう。「続けたいこと」「減らしたいこと」「新しく試したいこと」、に分けると整理しやすくなるのです。
続けていた活動をやめても、それまでの時間が無駄になるわけではありません。今の自分に合わなくなれば、別のものへ選び直すことができます。
定年退職後の暮らしを固定せず、そのときの自分に合わせて整え続けることが、長く安心して生活するための大切な習慣になるのです。

生きがいは、定年退職前に一つへ絞るものではありません。興味のあることを小さく試し、半年ごとに暮らしを見直しながら、自分に合う楽しみや役割を育てていきましょう。
定年後に小さく始められ、楽しみや成長を感じられるものを探している方には、鉛筆画も一つの選択肢になります。絵の上達だけではない鉛筆画の魅力については、次の記事で詳しくご紹介しています。LS300「なぜ鉛筆画を描くと人生が豊かになるのか?上達だけではない7つの魅力!」
まとめ|定年退職前の5年間は、定年後の暮らしを試しながら整える期間

定年退職後の生活が想像できないからといって、準備が遅れているわけではありません。
仕事を続けている間は、一日の多くが勤務時間や通勤によって決められているため、それらがなくなった生活を具体的に思い描くのは難しいものです。
大切なのは、理想の老後を頭の中だけで完成させようとせず、定年退職までの5年間を使って一つずつ試すことです。本記事でお伝えしました準備の順番を、もう一度振り返ってみましょう。
- 定年退職5年前:現在の時間の使い方と、仕事が生活の中で果たしている役割を見える化する
- 定年退職4年前:退職後の収入と支出を月単位に置き換えて、想定した予算で実際に暮らしてみる
- 定年退職3年前:健康状態と住環境を点検し、動けるうちに小さな改善を始める
- 定年退職2年前:会社以外にも自然に足を運べる場所を探し、緩やかな人間関係を育てる
- 定年退職1年前:何のために、どの程度働くのかを決め、仕事の引き継ぎと身辺整理を進める
- 定年退職半年前:仕事のない一週間を実際に試し、一日のリズムや夫婦の過ごし方を調整する
- 定年退職直前から定年退職後:興味のあることを小さく試し、楽しみや役割を暮らしの中で育てる
この順番は、すべての人に当てはまる絶対的なものではありません。健康や家族、勤務先の状況によっては、早めに取り組む項目があってもよいでしょう。
重要なのは、定年退職直前になって慌てて準備するのではなく、時間に余裕があるうちから行動してみることになります。
私が、ファイナンシャル・プランナー(AFP)や終活について学んできた中でも感じるのは、定年退職後の安心は、老後資金だけでは完成しないということです。
健康、住まい、人間関係、毎日の役割、楽しみが互いにつながって、初めて自分らしい暮らしになります。一度立てた計画にこだわる必要もありません。試してみて合わなければ変更し、生活環境が変われば選び直すことができます。
定年退職後の生活が見えてくるのは、完璧な計画を作ったときではなく、自分で実際に試し始めたときです。
まずは、現在の平日と休日の時間の使い方を書き出すことから始めてみてください。その小さな一歩が、定年退職後の漠然とした不安を、自分で整えられる具体的な暮らしへ変えていけます。
今の会社から再雇用を提示され、残るかどうか迷っている方は、 JT69「定年後も今の会社で働く?再雇用を選ぶ前に確認したい7つのポイント」も参考になります。
定年後の暮らしを、今から少しずつ整えていきませんか?
老後のお金・健康・住まい・人間関係・生きがいなど、人生の後半を安心して歩むためのヒントを、メールマガジンでお届けしています。
ファイナンシャル・プランナー(AFP)・終活カウンセラーとして学んできたことをもとに、毎日の暮らしに取り入れやすい考え方をお伝えします。
登録は無料です。いつでも解除できます。
私自身も、転職や起業、失敗や挑戦を繰り返しながら、人生の後半を少しずつ整えてきました。このサイトでは、その経験や学びをもとに、人生の後半を穏やかに充実させるヒントを発信しています。
この記事を書いた人
中山眞治
人生の後半を整えるアドバイザー
ファイナンシャル・プランナー(AFP)・終活カウンセラーなどの資格と人生経験をもとに、 40代以降の人生を「整えながら生きる」ための情報を発信しています。
プロフィールはこちら人生の後半とは、遅すぎるのではなく、これからの人生を整えていける時間がまだ充分にあります。あなたらしい歩み方を見つけるヒントになれば幸いです。

